ホールディング(相手を押さえる)とは?【サッカーのルール】

 誰がどう見ても、明らかに相手競技者を押さえたのに反則とならない事があります。相手を押さえるホールディングの反則は、どのように判定されるのでしょうか。

 2020年8月12日に行われた、J2リーグ 第11節 大宮アルディージャvsジュビロ磐田の一戦において、試合後のインタビューで磐田のルキアン選手が以下の様に答えました。

外国人だと(ファウルを)取ってもらえない印象が今日は強かった

 SNS上でも多くの磐田サポーターからルキアン選手のコメントを支持する声があがりました。なぜ、賛同の意見が多く見られたのでしょうか。この試合でルキアン選手が相手のコンタクトを受けながらファウルにならなかったシーンがいくつかありましたが、その中でも82分に起きた大宮の翁長選手によるルキアン選手に対する”手で肩を掴む行為”がノーファウルと判定された事が、主審に対する不信感に繋がっていると思われます。

  一連のプレーを以下のツイートで見ていただきましょう。

 みなさんは主審の判定をどの様に考えますか? 翁長選手の両手がルキアン選手の肩付近にかかっているのは明らか。にも関わらず、主審・副審ともに翁長選手のホールディングとは見なしませんでした。

 この記事では一連のプレーについて、現役3級審判員として活動している筆者が、判定の妥当性や審判員がホールディングを判定する際の考え方について紹介していきます。


判定の導き方

① 何を見て、どう判断するか

 サッカーは主審の主観によって多くの判定がなされるスポーツです。ただし、何でもかんでも主観的なイメージや印象だけで判定する訳ではありません。

【事実】×【主観的判断】

 審判員は、この2つの要素によって判定を下します。【事実】とは、誰が見ても判断が変わる事のない客観的な材料。例えば、接触の有無や接触部位などです。そして【主観的判断】は、審判員が主観で判断するもの・・・接触の程度(強度)・プレーの意図・接触がプレーにもたらす影響などです。

 この様に、眼(時には耳)から得た【事実】を元に、競技規則と照らし合わせて【主観的判断】で判定を決めます。これら、判定を決めるにあたっての考慮事項をConsideration Pointと呼びます。

② 競技規則

 続いて、競技規則を確認していきましょう。競技規則の「第12条 ファウルと不正行為 1.直接フリーキック」より、ホールディングの反則に該当する箇所を引用します。#1

競技者が次の反則のいずれかを犯した場合、直接フリーキックが与えられる:
・相手競技者を押さえる

 ポイントとしては、ホールディングの反則はキッキングやトリッピングとは異なり、主審は程度を考慮しません。競技規則上は、行為が行われる=反則が成立する、という位置付けになります。

 ただし、サッカーという競技において、ボールを争う過程で手や腕を”多少”使う事はフットボールコンタクトとして許容されています。つまり、競技規則上は”相手を押さえた時点で反則が成立する”のに対して、実際の判定では”押さえたかどうかだけでなく、押さえた後にどの様な結果になったか、その後のプレーにどんな影響を与えたか”という一連の流れで判定が下されます。

 繰り返しになりますが、”相手を押さえる=ホールディングが成立する”ではない事に注意しましょう。

③ Consideration Pointに基づく事実

 それでは、具体的にプレーを振り返っていきましょう。まずは、事実を整理します。

 この一連の流れを受けて、主審はルキアン選手のファウルを取りました。(その後、異議で警告)

④ 争点

 「② 競技規則」で述べたとおり、実際の判定においては相手を押さえた時点で反則と判断されるのではなく、押さえる行為がその後どんな影響を与えたかという観点も含めて一連の流れで判断されます。

 つまり、このプレーにおける争点は2つ。

  1. ルキアン選手がボールコントロールできなかったのは、82:08の翁長選手が両手で右肩を掴んだ事によるものか
  2. 両者が倒れてプレーを続けられなくなった要因は何か

という訳で、争点を1つずつ考えていきます。まずは1つ目。翁長選手の両手は確実にルキアン選手の右肩を掴んでいます。ただし、掴んでる時間は一瞬。翁長選手は一瞬で手を離します。そして、一瞬ではあるものの掴んでいるので、ルキアン選手のボールコントロールへの影響はゼロではない。ゼロではないですが、掴んでいる時間が一瞬なので大きな影響は無かったと判断します。よって、ノーファウル。

 続いて2つ目の争点。翁長選手の”掴み”の時間に比べて、ルキアン選手は一瞬ではなく翁長選手が転倒する直前まで左手を絡ませています。翁長選手の転倒は一定時間ホールドが続いた事によるものと考えられ、ルキアン選手のホールディングと判断。また、ルキアン選手も転倒しますが、これは翁長選手によって引き起こされたものではありません。

 この試合を担当した主審・副審(A1)ともに、この様なロジックで翁長選手の掴みはノーファウル、ルキアン選手のホールドは反則と判断したと予想します。そして、筆者もこの判定は妥当だと考えます。少なくとも、誤った判定(誤審)ではありません。

⑤ スロー映像の弊害

 ここまで読んで、それでも納得しない人はいると思います。その理由の一つにスロー映像の存在があります。ツイートの動画の後半に流れるリプレイ映像にて、翁長選手の”掴み”の部分がスローで再生されます。

 スロー映像は、接触の有無や接触部位といった客観的事実が明確に分かるというメリットがある一方で、主観的に判断する「程度やプレーの意図」が悪く見えるデメリットもあります。また、スローであるため、翁長選手が掴んでいる”時間”が実際より長く感じてしまいます。

 これらのメリット・デメリットを受けて、ノーマルスピードの映像とスロー映像の使い分けはVAR制度のプロトコルにも反映されています。接触の有無等の客観的事実を把握するにはスロー映像が有効ですが、接触の程度や全体的な状況を確認する際にはノーマルスピードを使いましょう、という考え方。

 接触部位の確認はリプレイ映像で行い、”掴み”の時間を含めた全体的な流れや状況は冒頭のノーマルスピードで確認するのが適切な見方になります。

外国籍選手が受けるファウル

 一連のプレーに関する判定の考えた方や妥当性の検証は以上になりますが、最後にルキアン選手のコメントを改めて考えてみたいと思います。筆者は磐田サポーターであり磐田の試合を主に観戦するので、Jリーグ全体の傾向を把握している訳ではありません。そのため、ここではルキアン選手へのファウルに限定して述べます。

 まず、ルキアン選手は強烈なフィジカルを持ったFWであり、相手チームはかなりの強度(反則覚悟?)で対抗しようとします。そのため、ルキアン選手はファウルやファウルに近い行為を受けやすい、という前提があります。

 それでは、ルキアン選手に対するファウルを取ってもらえないのは、どんな時でしょうか。筆者の印象としては、ルキアン選手がセルフジャッジでプレーを停めてしまう時にノーファウルと判断される傾向にあります。

 これまで繰り返し述べてきたとおり、ホールディング(シャツを引っ張る、相手を押さえる)は、行為そのものだけでなく その後の状況も含めて判定されます。相手の行為によって次のプレーが行えなかったという”結果”が出る前に、掴まれた事実だけをもってプレーを停めてファウルをアピールする。セルフジャッジとして審判へ悪い印象を与え、ファウルを取ってもらえない。このパターンが多いです。

 つまり、外国籍選手(ルキアン選手)へのファウルを取ってもらえない、ではなくファウルが成立する前にプレーを停めてしまっている側面があり、ルキアン選手が”結果”を主審に見せれば更に多くの反則を取ってもらえるようになるでしょう。


[引用資料] 出典:
#1サッカー競技規則 2020/21

競技規則
  • 第12条 1.直接フリーキック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です